公益社団法人 田川青年会議所
第62代理事長 水上 晋太朗

【動的平衡】

~シームレスな地域と組織へ~

はじめに

 私は田川郡添田町で生まれ育ち、高校卒業後に田川を離れました。社会人となり田川に戻ってきましたが、それから約 8 年間、私は田川地域の将来について意識することはほとんどなく、田川を離れた時期もありました。しかしこれまでの人生ではいつも素晴らしい出会いに恵まれ、多くの方々から様々な考え方や生き方を学ぶことができました。今日の私の価値観と正義感は私だけのものではなく、これまで関わりを持っていただいた多くの方々に作っていただいたと心から感謝しております。
 田川に戻ることとなってからは地域について思いを巡らせる機会も増え、縁あって田川青年会議所(以降:JCI 田川)に入会し、そして本年は組織を率いる立場となったことによって、故郷に恩返しできるチャンスが訪れました。地域貢献には様々なアプローチがありますが、私は自分を飾ることなく、自分自身の価値観と正義感に基づき、自分らしく地域に貢献したいと考えております。
 私はこれまでの社会経験の中で、世の中の無常な場面に遭遇することが数多くありました。その度に悩みながらも決断し、今日までどうにか順応してまいりました。当時は日常が変わることに慣れておらず、苦しい経験ばかりしていると感じておりましたが、今日においては、今まで当然と思われていた通説や常識に取って代わり、存在しなかったものが突然主流になることはもはや日常と言っても過言ではありません。
 地域の将来を考えたとき、こうした現代の日常的な変化への対応力こそ田川地域の未来に求められる力であり、その力を得るためには、私たちは自ら主体性を持ち、現状を正確に把握し、柔軟に答えを出せる人材でなければならないと考えています。
 私たちは⾧い歴史を持ちながらも社会に先駆けるべき存在として、柔軟で流動的な思考を持ち変化に対応できる組織を目指します。そのためにはどうしなければならないのか、現代の 20 代、30 代が担う責任を自覚し、地域に資するために邁進してまいります。

2024年の考え方

 JCI 田川は 2022 年に 創立60 周年を迎え、その際、今後のビジョンを「青年らしく、太陽のように田川を照らす」と定めました。このビジョンには、地域の皆様の心を動かし、田川をより良く、そして明るく変えるためには、まず私たち自身が輝いていなければならないという意味が込められています。今年度のスローガンは、このビジョンを踏まえ「動的平衡」といたしました。
 動的平衡という言葉は生物学者である福岡伸一氏が提唱する概念であり、変化させることによってバランスを保つという意味を持ちます。生命はなぜ何十年も命を維持できるのかという疑問に対し、福岡教授は「全てのものは壊れる方向にしか動かない」とした上で「生命は、細胞が壊れる前に先回りして自ら細胞を壊し、新しい細胞と入れ替える機能を持っているからこそ、個体として何十年も命を維持できる」と述べています。動的平衡の考え方では、生命は自ら破壊と再生を繰り返すことによって「全てのものは壊れる方向にしか動かない」という宿命に抗い、気の遠くなるような過去から現在まで命を繋いでこられたとされています。
 この「動的平衡」の概念は生命の維持だけでなく、私たちの日常生活や社会においても同じく適用されています。家庭、学校、そして職場と、私たちは幼少期より日々環境の変化を経験し、個人差はあれどもこれまでの日常を捨て、新たな環境に対応しながら生活しています。また自然災害や経済変動、そして文化や流行などの変化に対しても、私たちは動的平衡を本能的に取り入れ、臨機応変に対応できているからこそ現代社会で生きていけるのです。
 他や地域を輝かせるために自らが輝き、照らすというビジョンのもと、私たちは周囲の変化に対して寛容さを持ち、内部の多様性を柔軟に受け入れ、動的平衡の観点から受け売りでない解決策を生み示します。まずは組織を継続的に進化させ、そして内部より湧き出る活気により生みだす事業によって、希望に満ちた持続可能な地域の発展を目指します。

志を守る

 JCI 田川は 1962 年の設立から現在まで、田川一筋に活動を続けてきました。60 年以上にわたる⾧い歴史を通して多くの先輩方が組織を支え、育ててきたことに対し、深い感謝と尊敬の念を抱いております。今を担う私たちにとっても、将来を担うまだ見ぬ仲間たちにとっても、忘れてはならない歴史であると存じます。
 同時にこれまで田川地域は様々な変化を経験し、多くの課題を抱えています。かつて栄えた産業の衰退、若者の都市部への流出、人口減少、固着した負のイメージなど、これまでの変化に伴う深刻な課題は、地域の方であればどなたもご承知のことと存じます。周辺地域との発展の格差も目に見える変化として表れ、将来の田川を論ずるにあたっては、新しい視点での斬新な取り組みが求められていると強く感じます。
 しかし、どれだけ周囲が変化しても私たちには変わらない理念があります。それは「田川を良くする」ということです。そして先輩方が築いた基盤の上で、私たちは「青年としての英知と、勇気と、情熱をもって、明るい豊かな将来の田川に寄与する」という立場をしっかりと自覚し、今後も継続して行動していかなければなりません。この不変の志を胸に、歩みを止めることなく、新しい時代の課題に挑みながら後世にしっかりと引継ぐ所存でございます。

みんなが参画したくなる事業

 2024 年は、スローガンである動的平衡の考え方を取り入れて事業を展開します。私たちの事業は現在の状況や環境をしっかりと鑑み、意義はもちろんのこと、地域住民の皆さまがワクワクできるものでなければならず、そして共に成⾧できるものでなければなりません。そのためには、事業に夢と説得力をもたせることが必要です。地域住民の皆さまが「私もこの事業に参加したい」と思える「みんなが参画したくなる事業」を構築し、事業を通じて地域住民の皆さまに新たな視点の発見や意識変革を促すことを目指します。

 また本年は JCI 田川にとって特別な 1 年となります。日本青年会議所が主催する全国大会が福岡市で開催され、私たちは副主管として参画することとなりました。また県内 22の青年会議所で構成される福岡ブロック協議会の会⾧が JCI 田川より選出され、さらに福岡ブロック協議会が主催する「第 52 回福岡ブロック大会」の開催地は田川となり、私たちは主管として参画いたします。地域の魅力を多くの方々に伝えるチャンスに恵まれた 1年として、関係諸団体の皆さま方にもご協力を仰ぐと同時にしっかりとシナジーを生み出しながら、田川の発展に寄与したいと考えております。
 このように 2024 年は、JCI 田川の新たな歴史を築いていくだけでなく、地域と共に成⾧する 1 年として、皆さま方のご協力を賜り、明るい豊かな田川の未来を創造していきたいと存じます。

シームレスな組織へ

 一方、JCI 田川は中⾧期的な会員数の減少という大きな課題に直面しています。少子高齢化に伴う人手不足がこの状況の主な要因ですが、私たちはこの状況に目を背けず乗り越えなければなりません。会員数を増やしながら持続可能な組織を築くためには、組織をシームレスで効率的なものに変革する必要があると考えます。
 一社会人として、忙しいことはできない理由にならない、ということは誰しも聞いたことのある言葉であろうと存じますが、持続的で選ばれる組織の考え方は決してそうであってはならないと感じます。自己を犠牲に活動するメンバーに対して、最適な時間の使い方や効率化、意思決定と情報の伝達速度を高めようとする姿勢を「組織として」示さなければなりません。今こそ組織の在り方を見つめなおし、職務の引継ぎや伝統の継承を個ではなく組織としてシームレスに実現させ、メンバー一人ひとりが能動的に関与できる、チームワークに焦点を当てた現代ならではの環境作りを実現させます。
 今後も組織を持続させていくためには、時代の最先端をしっかりと捉え、ここで学んだ知識やノウハウを職場に持ち帰ることのできる「目に見えるメリット」をメンバーだけでなくその周囲の方々にも実感していただき、青年会議所を知っている方からだけでなく、知らない方からも選ばれる組織にならなければならないのです。

さいごに

 組織を動かすことは簡単ではなく、ましてや地域に影響を与えるということは非常に困難なことではあります。しかし共通の価値観のもと、目標に向かって全員で踏み出せば、どんな困難も共に越えていけるはずだと信じています。田川のために私たちが今本当に取り組まなければならないことを考え、そして実行することから逃げず、事業と組織づくりの両輪をしっかりと回し続けると同時に、この瞬間もまた動的平衡の一場面であることを自覚しながら、田川青年会議所は 2024 年もしっかりと歩みを進めてまいります。